授業力が向上する学習者主体の授業シミュレーター
Q:まずは自己紹介をお願いします。
A:相模原市立中野中学校で教務主任を務めております梅野と申します。担当教科は保健体育科です。2020年のコロナ禍において情報技術の必要性を強く実感し、それ以降、ICTを活用した授業研究や生成AIを活用した授業研究、教育活動に特に力を入れております。現場の教員として、常に新しい教育技術の可能性を追求し続けています。
Q:作られているモードの名前と概要、その背景と目的を教えていただけますか?
A:私が開発したモードは「ゼロ時間目の授業」と名付けました。これは、教師が一人で何度も模擬授業を行えるシミュレーターです。具体的には、教師が設定した問いや課題に対して、生成AIが多様な生徒を演じ、対話を通じて課題解決を目指していくというものです。 開発の背景には、現場の教員が抱える切実な課題があります。多くの教員は「主体的・対話的で深い学び」や探究的な学習を実現したいと考えていますが、自身がそのような授業を受けた経験が少ないため、具体的なイメージを持つことが困難です。また、1学年1クラスしかない場合や、同じ単元の授業が1年後にしか実践できないなど、授業改善の機会が限られているという現状もあります。 このモードは、時間や場所の制約を受けることなく、何度でも授業実践の経験を積むことができます。特に若手教員にとっては、生徒の学習する姿をイメージする力を養う助けになると考えています。教師の授業力向上と、それによる生徒の充実した学びの保障、これが「ゼロ時間目の授業」の最大の目的です。
Q:具体的な活用方法を教えていただけますか?
A:まず、教科と内容を設定します。例えば、中学校保健体育の「健康な生活と疾病の予防」単元「感染症の予防」を設定します。次に、思考を深める問いや課題を設定します。この設定が非常に重要で、うまくいかない場合は何度でも見直しが可能です。 システム上では、生成AIが演じる生徒A、B、Cが対話を始めます。特徴的なのは、21個用意された質問タブです。これらを順番に、あるいはランダムに選択することで、様々な方向から深い学びへとつなげていくことができます。また、教師が用意した資料を適切なタイミングで提示することで、より実践的な授業シミュレーションが可能です。 さらに、生成AIの活用方面についても、「課題解決」「多面的な見方の拡張」「語彙力・表現力の育成」「文章添削・評価」「メタ認知」など、様々な場面での活用方法を試すことができます。各場面での具体的なプロンプト例やタイミングまで提示されるので、実践的な活用イメージを掴むことができます。
Q:実際の導入効果や教員・生徒の反応はいかがでしょうか?
A:中学校区内の小学校、中学校の約60名の教員を対象に実技研修を実施しました。各教員が授業をシミュレートしながら、生徒や児童の対話を深める方法を探究しました。研修後のアンケートでは、約91%の教員が「授業研究として成果があった」と回答しています。 特筆すべきは、このシステムが従来の指導書や参考書とは異なり、教員自身が設定した問いに基づいて、仮想空間内の生徒との対話を通じて授業設計ができる点です。これにより、より実践的で柔軟な授業づくりが可能になっています。
Q:導入に際する注意点や浸透するための工夫について教えてください。
A:このシステムの最大の特徴は、生成AIとの対話を通じて理想の授業づくりを実現できる点です。ただし、プロンプトの入力方法が重要で、何度も試行錯誤を重ねる必要があります。 従来の授業設計支援ツールでは、途中で挫折してしまう教員も多かったのですが、このプラットフォームでは、21個の質問タブを通じて、段階的に深い学びへと導いていけるよう工夫されています。これは、21世紀型の新しい教育に必要な、探究的で主体的な学びを実現するための重要な支援となっています。
Q:今後の展望についてお聞かせください。
A:今後の展望として、ウェブ検索機能の実装を期待しています。また、画像や動画を作成・活用できる機能の追加も検討しています。テクノロジーの進化に合わせて、さらなる機能の拡張を目指しています。このシステムは非常に柔軟性が高く、活用方法は無限に広がる可能性を秘めていると考えています。
Q:スクールAIに興味を持っている先生方へメッセージをお願いします。
A:私自身、スクールAIのプラットフォームとの出会いは衝撃的でした。特に「ゼロ時間目の授業」の可能性には大きな期待を寄せています。生成AIの活用には確かにスキルが必要ですが、このプラットフォームを通じて、教員が深い学びのある授業を実現するためのサポートが得られます。 21個の質問タブは、21世紀型の新しい教育に必要な探究的で主体的な学び、対話的で深い学びを実現するための道具として機能します。ぜひ多くの先生方に活用していただき、それぞれのオリジナルな深い学びのある授業設計に取り組んでいただきたいと思います。