専門家の声

東京学芸大学 教育学部
鈴木直樹准教授

スクールAIを活用した研究に取り組まれての感想をお聞かせください。

スクールAIを活用することで 、私は学校教育が大きく変わるだろうなと思いますね。佐藤さん(みんがく代表)が良く言っている「先生の分身」「先生のクローン」という発想が面白くて、大事だと思っています。AIが先生にとって代わるのではなく、教師が一人ではできないことを、アシスタント教師としてのAIが支援することで、より質の高い授業を展開できる。あくまで舵取りは、先生自身が行い、サポートをAIが行う。(生身の人間である)先生がいるからこそ、AIという先生の分身が効果を発揮できるんです。その意味で、非常に大きな可能性を感じています。

具体的にどのように活用されました?

授業後の振り返りの場面で、生徒の思考を深めるために使っています。これまでは学習カードを書いたり、先生に声をかけられた生徒の一人が代表して振り返りをすることが一般的でしたが、スクールAIを使うことで、生徒の振り返りの内容が、とても質の高いものになっていると私は感じています。そういう意味で、先生を助けてくれるツールだと感じており、今後も積極的に使っていこうと思っています。

なぜスクールAIを使うと、子供たちの思考は深まるのでしょうか?

子どもたちは、授業後の振り返りの焦点は、感情面に寄りがちです。例えば、「つまらなかった」「疲れた」「楽しかった」などですね。でも、そこで終わっていたら、学習としては物足りないと私は思っています。やっぱり「楽しさ」の裏にあることや、「疲れた」の裏にあることを掘り下げる必要がある。生徒が抽象的な感情のみを入力すると、スクールAIで事前に設定した基準を入れているので、その基準に沿って、対話をしながら、具体的なことまでクリアになっていく。だから、何が変わったかというと、生徒の今日学習したことに対する認識が明確になっていると言えるのです。AIは決して答えるためのツールでなく、その子供が何を学んだかを明確にしていくための問いを立てていくためのツールとなっています。そして、AIがどのような基準でどのような問いかけがなされるかを、教師側でコントロールできるのが大きな特徴と言えます。

東北学院大学 文学部
稲垣忠教授

生成AIの教育活用の課題と可能性

生成AI自体がまだ広まって1年ちょっとですが、技術自体がどんどん進化しています。学校の先生方や子どもたちが使う場面で考えた時に、ルールを整理しようとすると、技術が進化してしまい、いたちごっこになっています。文部科学省からガイドラインが公表されていますが暫定的なものにならざるを得ないですし、変わり続けることを前提に教育現場がどう対応していくのかは大きな課題です。その一方で生成AIは、文章にしても、画像にしても、音楽でも、いろんなものを作り出す際のサポートをしてくれる面白さがあります。子どもたちが絵を描いたり、作文を書いたりするときに、すっとゼロからはじめられる子ばかりじゃない。最初の一歩を踏み出す手助けになる部分には、大きな期待をしています。特にチャットでの対話を通じて、パートナー的な関わり方ができるので、単にテンプレートやアイデア集に頼るのではなく、アイデアを広げる相手をしてくれるところが面白いところです。

スクールAIを使ってみての感想

私自身はChatGPTでもいろいろ試してますが、スクールAIの場合は、ある程度条件付けだったりとかインターフェース含めて、教育の現場に寄り添った作りになっています。プロンプトを作っていくためのアドバイスの枠組みが実装されている点で、先生方の大きな助けになるかなと思っています。もう一つは、つくったサービスをいろんな人に使っていただきたいと思った時に、現状のChatGPTでは、なかなか他の先生や生徒に共有しづらいことを課題に感じています。例えば私の場合、先生方の授業アイデアを広げるためのツールを作っています。あるいは先生方が子どもたちに使ってほしいサービスを考えた、そういった際にスクールAIの中で作っておけば、ライセンスの観点からも、いろんな人に展開しやすいことが魅力です。

期待するモード

英語の和訳や添削は、カラフル学舎さんでも既に実施されている通り、イメージしやすいですね。国語の作文添削も、うまくいきそうです。例えば、子どもたちがプレゼンする時の読み原稿を作った時に、それを添削する際にも役立ちそうです。これまでだったら先生方が机間巡視しながら指導したり、一人一人呼び出してアドバイスするとかやってましたが、どうしても人数的にも時間的にも限界があります。友だち同士で相互にアドバイスをするにも、学習としてしっかり見合って議論してほしい点と、今回の学習では重視していないけど気になる点があるとそこに注意がいってしまいます。AIを使うことで、子どもたちが自分で必要な時に、結構丁寧なアドバイスをもらえます。もちろん、頼りきりにならないよう、先生も子どもたちも「見る目」を鍛えていく必要があると思います。子どもたちが「もう一歩伸びたい」思いを持った時に助けてくれる。単に、出力されたいかにもな模範解答を真似すればいいというのではなく、アドバイスを適切に出してくれる、そういった投げかけ方の工夫が学びの質を高めるには必要だと思います。

探究学習での活用

今、先生向けの探究型の授業づくりのシミュレーターを作っています。実際の探究の道のり、例えば一般的には「課題の設定」があって、「情報の収集」があってという流れがありますが、シミュレーターを使うと、具体的にどんな課題を設定すると、どんなことが起こりそうなのかをイメージできます。先生方には、こんな探究ができたら面白そうだなと、きっかけを与える道具になると思うんですね。実際に実践すると当然のことながらもっと違うことがいっぱい起きたり、いろんな発見があったりするのが僕は探究の魅力だとも思っていますが、そこに踏み出したくなるような支えとなるツールになれば面白いと思っております。

宮城教育大学大学院 教育学研究科
菅原弘一特任教授

教員養成専門家の立場から生成AIの課題

教員養成という視点から言うと、可能性を感じるというよりは、まだもう少しその手前にいるような気がします。つまり、生成AIとは、一体これが何者なのかよくわからない。だからこそ、まずそれを知っていくことが大切であると感じるんですね。今、なんとなく生成AIについての誤解があるような気がしていて、一番気になるのが、生成AIをこれまでの検索ツールの延長と捉えてしまいがちなことかなと思っています。生成AIは,何か尋ねれば答えを返してくれます。でも、そうやって返された答えは,今まで「検索をして得た情報」と何が違うのか、まだ分かっていない先生も多いような気がしています。そのような状況なので、生成AIをどういう風に使っていくといいのかというところまでは、見えていない先生たちもいるんじゃないのかなと思っています。

先生方に理解してもらうために必要なこと

生成AIは眺めていても理解しづらいから、まずは先生自身で使ってみるということが必要かと思います。スクールAIのようなツールは、学習や教育に特化されているので、先生方が使いやすいようになっています。そのため、使いながら、生成AIの得意や不得意を理解することにもつながっていきやすいと思います。教室の中の多様化が進んで個別対応を求められる現場で、先生方はすごく苦慮しているんです。一人の先生がみんなに個別対応しないといけない状況を考えたときに、生成AIの活用は、先生たちにとって大きな助けとなっていくのではないかと感じています。

現場で磨かれる技量

テンプレートがあることで、最初のハードルが低くなっていることは良いことだと思います。でもやっぱり、教室の実際は、誰かが作ったものがうまく当てはまるとは限らないことの方が多いじゃないですか。そういう時に、先生自身が自分で、生徒の実態を見ながら、プロンプトを変えていくことが必要になってくるんだなと思っています。「プロンプト次第」といった感覚も、実際に使いながら、実感していくことができるんじゃないかと思うんですね。そこにまで到達できると、先生はAIに頼るのではなく、生徒の見取り方や授業の構成の仕方など、先生自身の見方や考え方を生かしてプロンプトを書き上げていくことになるので,授業力を磨いていくことにもつながっていくんじゃないかと思っています。