9月14日、AI共育ラボ 特別支援部では、「AIがニューロダイバーシティをサポートする未来へ」をテーマに、徳島県立国府支援学校の今井明人先生をゲストにお迎えし、仙台大学 体育学部 健康福祉学科の岩井祐一先生にファシリテーターを務めていただき開催いたしました。
今回のラボで印象的だったのは、AIを「どう使うか」という話だけではありません。
AIを使った実践を重ねる中で、
「支援する側がAIをどう使うか」から、「本人がAIをどう使いたいか」へ。
さらに、「本人はどんな支援を必要としているのか」へ。
少しずつ変化していった、今井先生の実践と問い。
そして、その実践を受けて岩井先生から語られた、「本人と環境の関係をどう調整していくのか」という視点。
AIの可能性が、思いがけないところへ広がっていく時間となりました。

AIは「支援するための道具」から始まった
今井先生の実践の出発点は、2024年。
「AIで生徒の困りごとを支援できないか?」
そんなシンプルな問いから始まりました。
生徒自身がAIと直接対話し、自分のペースで何度でも聞き直せる仕組みをつくる。
そこで生まれたのが、生活・進路・メンタルなどを支える「お助けミナッチ」でした。
AIなら、人には少し聞きづらいことも、分からなければ何度でも聞き直すことができる。
「自分のペースで、何度でも。」
そこに特別支援教育との相性を感じたと、今井先生は振り返ります。
ところが、実践を続ける中で、今井先生の中にひとつの「引っかかり」が生まれます。
生徒自身がAIを操作していても、
「何をどう助けるか」を決めていたのは、支援する側だった。
そこで、問いが変わりました。
「AIでどう支援するか」ではなく、
「本人はAIをどう使いたいか?」
ここから、実践は次の段階へ進んでいきます。
「自由に使って」ではなく、「選べる」から始める
2025年の実践で大切にしたのは、「何を聞くかを本人が選ぶ」こと。
いきなり「AIに自由に質問してみよう」と言われても、難しい場合があります。
そこで最初は先生がいくつかの問いを用意する。
その中から本人が選ぶ。
そして、慣れてきたら、自分で問いをつくる。
「完全な自由」か「教師主導」かの二択ではなく、自分で選べるための足場をつくる。
その先にあったのは、AIの使い方を覚えることだけではありませんでした。
「私はこれが知りたい」
「私はこれを聞きたい」
そう、自分の考えを表現すること。
今井先生は、AI活用の授業で育てたいのは、プロンプトを書く技術だけではなく、「自分は何を知りたいのか」に気づく力だと話します。
AIから始めない。まず「自分の生活」から。
そして2026年。
今井先生の問いは、さらに変わります。
「AIに何ができる?」ではなく、
「私はAIに何をしてほしい?」
朝の準備、学校生活、家事、健康、移動、人間関係、気持ち――。
AIの機能から考えるのではなく、本人の生活から出発する。
「ここで困っている」
「これを知りたい」
「こういう時に助けてほしい」
そんな一人ひとりの「自分」からAIとの関わりを考えていきます。
そして、ここで大切にされているのが、
「何でもAIに解決してもらわない」
ということ。
例えば、学校で緊張しているとき、AIがいくつかの方法を提示する。
深呼吸する。
環境を変える。
ルーティンをつくる。
その中から本人が選び、試してみる。
合わなければ、また調整する。
AIが答えを決めるのではなく、本人が自分に合う助け方を見つけていく。そのプロセスをAIが支える。
この考え方は、意思決定にもつながります。
AIは情報を整理したり、候補を出したりできる。
でも、最後に決めるのは自分。
今井先生が生徒たちにも伝えているという、
「AIは決める材料、考える材料をくれる。でも最後に決めるのは自分」
という言葉が、とても印象に残りました。
「自分を知る」から始まる、新しい実践
そして今年、今井先生が取り組んでいるのが、「自分攻略ラボ」です。
名前の通り、「自分自身を攻略する研究所」。
自分はどんな時に困るのか。
何をすると落ち着くのか。
どんな助け方が自分には合うのか。
それを先生が分析して教えるのではなく、本人と一緒に探していく。
「自分を知る」
↓
「環境を知る」
↓
「必要な支援を選ぶ」
↓
「自分を伝える」
そんな流れを大切にしています。
ここで面白いのは、AIだけが選択肢ではないことです。
人に頼る。
見て分かるようにする。
気持ちを落ち着かせる。
タブレットを使う。
そして、その中にAIもある。
AIを使わなくてもいい。
本人にとって、人に頼む方がよければ、それを選べばいい。
「何を使うか」ではなく、「自分に合うものを自分で選べること」がゴールなのだと、今井先生は話します。
岩井先生が投げかけた、「支援の主語は誰なのか?」
今井先生のお話を受け、岩井先生からは、今回の実践を特別支援教育の視点から捉え直すお話がありました。
岩井先生が注目したのは、AIの機能そのもの以上に、「支援のあり方がどう変化してきたのか」ということ。
2024年には「生成AIを使って、どう支援するのか」。
そこから、
「本人が生成AIをどう使うのか」へ。
さらに、
「本人自身が、どのような支援を必要としているのかを考える」へ。
実践を重ねる中で、少しずつ焦点が変わってきたのではないか、と岩井先生は整理しました。
そのうえで提示されたのが、「自己決定」「足場かけ」「人と環境の関係」という3つの視点です。
本人が自分で選び、考えるためには、適切な支援が必要になる。
そして、その選択が実際の生活や周囲の人との関係の中で生かされていくことで、本人の主体的な支援につながっていく。
AIも、そのプロセスの中にある支援のひとつとして捉えられるのではないか、と岩井先生は話しました。
「本人を変える」のではなく、「本人と環境を調整する」
さらに岩井先生が示したのが、「本人を変えるのか、関係を変えるのか」という視点でした。
特別支援教育では、環境設定や環境調整という考え方があります。
AIやICTによって、予定を理解したり、情報を整理したりすることができる。
でも、それだけではありません。
「自分は何がしたいのか」を周囲に伝えられるようになることで、周囲の関わり方も変わっていく。
AIが、本人の思いを周囲へ届ける「橋渡し」になる。
だからこそ、
「本人を環境に合わせるのではなく、本人と環境を調整していくためのツールとしてAIがあるのではないか」
――岩井先生からは、そんな視点が示されました。
AIを使って「できるようにする」だけではない。
本人と周囲との関係そのものを、少し変えていく。
今回の実践から、そんなAIの可能性が見えてきました。
一人の実践から、次の実践へ
今回のラボでは、今井先生、岩井先生のお話に加え、参加者の先生方からも、それぞれの現場での実践や問いが共有されました。
AIを使って教材をつくる。
一人ひとりに合わせた支援ツールをつくる。
授業の中で「選ぶ」経験をつくる。
そして、AIを使わないという選択も含めて、本人に合った方法を探していく。
まだ、特別支援教育におけるAI活用は、たくさんの事例が積み上がっている段階ではありません。
だからこそ、一つひとつの実践から見えてきたことを持ち寄り、また次の実践につなげていくことに、大きな意味があるのかもしれません。
岩井先生も、特別支援教育におけるAI活用研究はまだ小規模な事例が多いからこそ、これからさまざまな研究・実践が積み重なっていくことへの期待を語りました。
今回の時間も、その一歩になったのではないでしょうか。
AIの先にあるのは、「その人らしく選ぶ」こと
今回のお話を聞いていると、AI活用のスタート地点と、今井先生が現在見ている景色は、ずいぶん違って見えます。
AIで困りごとを支援する。
そこから、
本人がAIを使う。
そして、
本人が自分を知り、自分に合う支援を選ぶ。
さらにその先には、
自分のことを周囲に伝え、環境との関係をつくっていくことがある。
AIを使えるようになることがゴールではない。
AIを使うことさえ、数ある選択肢のひとつ。
その人が、自分に合う方法を見つけ、考え、選び、伝えていく。
そんな未来を考えると、AIの可能性は、まだまだこれから広がっていきそうです。
今回のAI共育ラボ 特別支援部が、参加された皆さまにとって、それぞれの現場で新しい一歩を考えるきっかけとなっていれば嬉しく思います。
今井先生、岩井先生、そしてご参加いただいた皆さま、貴重なお話と対話をありがとうございました。
開催概要
- イベント名:AI共育ラボ 特別支援部 第1回
- テーマ:AIがニューロダイバーシティをサポートする未来へ
- 開催日:2026年9月14日(月)20:00~21:00
- 開催形式:オンライン
- ゲスト:今井 明人 先生(徳島県立国府支援学校)
- ファシリテーター:岩井 祐一 先生(仙台大学 体育学部 健康福祉学科)
AI共育ラボについて
AI共育ラボは、学校・塾・教育委員会の先生方が集い、生成AIの活用やAIリテラシー教育について実践を共有しながら学び合うコミュニティです。
■ 本イベントに関するお問合せは、下記までお気軽にお問い合わせください。
株式会社みんがく
E-mail:info@mingaku.net
TEL:03-4335-3965
